シラタキの漫画レビュー

今までに読んで楽しかった、心動いた漫画のレビューを書いていきます。

ファイアパンチ(藤本タツキ) - ムリゲーリメイク的ヒーロー漫画

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https://ebookjapan.yahoo.co.jp/books/371428/A001659313/

チェンソーマンが面白くて同作者の過去作が読みたくなり、ちょうどebookjapanでセールをやっていたのでまとめ買い。本ブログの第一回目は、チェーンソーマンで有名になった漫画家である藤本タツキ氏の過去作、ファイアパンチをレビューする。

本作は人間の闇がクローズアップされており極限環境下での醜い生の奪い合いで気が滅入る展開が序盤続く。氷の魔女によってまるでこの世界は氷河期の様相を呈している。生き残るため、同じ人間でありながら、搾取する側、搾取される側、搾取する側に従う平民がおり、搾取される側は奴隷やとして燃料として消費される。近年、コロナウィルス騒動により、このような階級社会の側面が際立ってきておりどこか現代に通じる作品だ。

非勧善懲悪

何をもって悪とするか善とするか、本作では主人公や登場人物の立ち位置が最初善なる動機から始まっていくが、いつの間にか悪に移り変わっていくという事が何度もあり、単純に悪と言えるようなモノはこの世に実はあまりないのでは?と考えさせられる。

この物語は主人公の少年アグニが、祝福と呼ばれるこの世界の超能力で妹や村の仲間が焼き殺され、復讐を誓うところから始まる。祝福には様々な種類があり、アグニは再生する祝福の力が強かったため、永遠に燃え続ける火を出す祝福を受けても生き残ることができた。

アグニの復讐の動機は正義あるものであったが、物語が進むにつれ、実は復讐の相手が必ずしも悪人とは言えないまた別の正義をもった人間であったことがわかる。最終的に復讐を果たすことになるが、その結果、自分もその敵役と同じ存在になっていることにアグニは気づく。アグニは今度は自分こそが仇になっていることに葛藤し自殺を図ることになる。

ヒーローものでは勧善懲悪的なエンタメ作品が多く、視聴者は悩まずに単純に悪を打ち滅ぼす爽快さを楽しめるが、本作は特定の正義を一方的に信じるタイプの読者にある種不愉快さを与えるかもしれない。

ムリゲーリメイク

読了後、藤本タツキ氏について色々調べてみると面白いことが分かった。実は著者は、日本のWeb漫画の草分け的存在である新都社長門は俺という名前でムリゲーというタイトルの漫画を投稿していたのだ。ムリゲーは私が丁度無職で時間を持て余していた時期に、無料のWeb漫画を読み漁っていた頃に出会った作品で、ワンパンマン、THE PENISMAN に次ぐ印象深い作品であった。

namakuriimu.web.fc2.com

ムリゲーは大分昔に読んだ作品だったのでもう一度読み返してみた。すると、ところどころファイアパンチと共通点が見えてくる。ムリゲーは難度の高すぎるコンピュータゲームが語源のタイトルであるが、ファイアパンチも主人公の生い立ちがムリゲーそのものであり、祝福によって無限に再生と死を繰り返しても前に進む生き様はムリゲーを彷彿とさせる。

また、チェンソーマンにも通ずるテーマの一つが、ファイアパンチでもムリゲーでも大事な要素として扱われている。愛無しでは人間は生きていけないということだろうか?

実はSF

祝福は実は超能力ではない。科学技術の発達により生まれた、空気中の何らかの物質を操作する能力である。恐らくこの世界ではナノマシンが大気中に存在しておりナノマシンを操作することによって超常現象が引き起こしているものと想像される。作中では過去に存在していた人類を旧人類と呼び、現人類とことなりあらゆる祝福を行使できたといわれている。再生の祝福や、業火の祝福はアプリケーションの一種であると説明される。恐らく、現人類の体内には一種類のアプリケーションしか用意されていないため特定の祝福しか行使できないのだろう。

この作品を盛り上げる設定はなかなか面白い発想だと思った。現実の世界ではスマートフォンのアプリケーションを載せ替えることで、ラジオにしたりテレビにしたり様々なサービスを利用することができる。ファイアパンチの過去の世界ではそれと同じようにアプリケーションを載せ替えることであらゆる超常現象を再現していたと想像するとわくわく感がある。

まとめ

チェンソーマンはヒーローもの作品として楽しめる一方、本作は20代以上の擦れた大人に向いており万人受けはしないだろう。しかし、私は圧倒的に本作をおススメしたい。10年以上前にムリゲーを読み作者の連載を読みたいと思い続けての本作、非常に感慨深い。思わずレビューを書かずにはいられないくらい心動く良作だった。似たような作品で、堕天作戦を気に入る方には絶対に本作も気に入ることだろう。

生きる意義とか正義とか哲学的問いを与えてくれる名作として今後評価されていくかもしれない。